
父母に祈りを捧げるお仏台を、愛知県一宮市にある「ルークファニチャー」に製作していただきました。先祖の仏壇は魂抜きをして、名古屋の実家とともに数年前に手放しています。千葉の家に仏間はなく、仏壇のスペース確保も難しいため、昨年10月末に母の1周忌を終えたタイミングで、インテリアに馴染むシンプルな仏壇をオーダーしました。

ぼくが描いた最初のラフスケッチ。持ち運びが可能で、レイアウトもフレキシブル。コンパクトでかわいらしいおりんやカラフルなミニ骨壺を少しずつ揃えて、全体の雰囲気やリクエストを落とし込んでいきました。メインとなる台のデザインを相談すると…。
「印象を持たせるために『浮いているようにみえる』デザインにします。浮かせることで軽く見え、板に厚みを持たせると無垢でも反りにくいというメリットがあり、持ち運ぶ際の取っ手にもなります。お仏壇というより『お仏台』、空から雲に乗り見守ってくれているイメージです(ジブリ映画の『かぐや姫』に登場する神様が乗っている雲みたいな)。『浮雲』という軽やかな名前で仏具をもっと身近に感じてもらえたらいいなと思いました」と石川さん。
素晴らしい提案に期待は膨らむばかりです。

もともと色や質感が大好きで、仏具に使われることも多い真鍮素材をどこかにぜひ!とお願いしたところ、木のついたて部分に半円の真鍮板をはめ込んでくれました。真鍮板は「さすり仕上げ」。細かい「さすり跡」が乱反射して、真鍮がより明るく輝きます。まさに後光が差すイメージ!

手のひらサイズのおうちも作っていただきました。「小池ファミリーといったら『おうち』。節目やお盆にはご先祖様が降りてきて、ご家族と一緒にお茶を楽しむ家があったら素敵だと思いました」と、奥さまである石川真理子さんのひらめきなのだそう。手にころんとおさまる正方形の2階建てのデザインは、軒が出るようにひとまわり大きくした『寄棟(よせむね)型』。玄関ドアと格子窓は真鍮の板で再現、鉄染めで存在感もバツグンです。
父が建てた2階建ての実家は相続の問題で取り壊してしまったため、父のそばに置いたらきっと喜ぶ!と思いました。ぼくの実家がすでにないことを2人にお伝えしていなかったので驚きましたが、これは父が望んだ必然なんだ思えば、ストンと腑に落ちました。

フレームは表面が丸い「アールタイプ」に。ぼくが選んだ丸みのある仏具たちと相性バッチリです。「仏具の中での主張具合や、ご遺影の見やすさなども考慮し、既存の『フラットタイプ』の額縁をブラッシュアップした形に行きつきました。少しでもコンパクトにとフレームの太さを13㎜から10㎜にし、安心感に軽さも加えてみました。木の存在感は残したいので、厚みは25㎜のままにしておりますが、お写真は前面に来る仕様になってます。浮雲に置いた際にお顔が見やすいように、額の角度は従来のものよりも少し起こしてみました」
石川さんの思いが十二分に伝わります。

支え棒は真鍮の4mm丸棒。「支え棒はこれまで端に付けていましたが、中央に移動して安定感を持たせましたので、左右に置いても棒を気にすることなく置いていただけます」
これ気に入りました!

面取りには神社仏閣などによく使われている「几帳面」の中の「平几帳面」をセレクト。神聖さがアップしまし、角を丸くしたことでやさしい印象に。細かな意匠にまでこだわっていただき、感謝感激です。30㎜厚の木を削り込んでいるため、仏具にふさわしい適度な重みも体感できます。

提案していただいた木材は、すべて国産の天然乾燥材。ぼくは淡い渋みと上品な木目が気に入り、北海道産の山桜を選びました。「機械乾燥を通しておらず、ゆっくりと水分が抜けていくのを待つ"天然乾燥"された木を使用しています。木にやさしいのはもちろん、この自然の時間を待つという時間の尊さと、仏具の神聖さを合わせたかったという思いがあります。山桜は切ると桜餅の香りがして、濃い赤褐色に経年変化するのが特徴です。まさに桜の花が咲く木ですのでお正月、お盆、さらに春のお花見も楽しめる木になると思います」
陽気な父と甘党の母にはピッタリの材種です!

今回製作していただいたフレームとおうちの材種は、土台と同じ山桜にしました。サイズは「白銀比」と呼ばれる「およそ1: 1.414(5:7)」の比率なのだそう。「大和比」とも呼ばれ、日本では古くから大工たちの間で「神の比率」とされ、日本最古の木造建築である法隆寺金堂や五重塔、伊勢神宮などの建築物のほか、平安京の街並み、彫刻、生け花にもこの比率が多く取り入れられています。「ここはこだわりたかったポイント」と石川さん。
セラミック塗装仕上げは、浸透性があり木肌の感覚を楽しむことができます。反りにくく、水を弾き、輪染みができないのも気に入りました。
図面の製作と「おうち」のドア、窓の手彫り、角の面取り、真鍮の加工、「浮雲」の仕上げ塗装は、妻の真理子さんの手仕事。それ以外の工程を夫の寛之さんが受け持っています。夫婦で意見を出しながら、足し算と引き算を繰り返して決めていったとのこと。まさに夫婦の合作!
3人の育ちざかりのお子さんたちを育てながら、オーダーして約3か月ほどで完成。送っていただいた木材やデザインサンプルも、完成イメージと木の質感を知るのに大いに役立ちました。

過去に仏師の依頼で小さな仏壇を製作したことが一度あったそうですが、ゼロから作り上げるのは初めてだったそう。こうしてお花を飾れば、その上品な出来栄えは一目瞭然です。

1/31は父の85回めの誕生日で、母の月命日でもありました。家族が集まるリビングに浮雲をセットすると、父母の写真がみるみる笑顔になり、後光を浴びてキラキラと輝いていました。これからずっと大切にしていきたいと思います。
今年の一文字は穏やかの「穏」。これで安穏、平穏な日々が送れそうです。
石川寛之さん、真理子さん、このたびは本当にありがとうございました!
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